●ボルトの締め付けトルクと強度区分についてのひとこと
●普段から自分でエンジンその他の組み立てる方であればボルトの締め付けトルクに関しては
こだわっている方も多いと思います。 ですが、ボルトはあくまで部品と部品を「軸方向に締結する」
のが目的ですので、本当に大事なのは軸方向にかかる引張り応力が重要になります。
締め付けトルクはあくまでその軸力を回転方向の力に置き換えて表示しているに過ぎません。
ですので同じ締めつけトルクでもボルトの座面積、ピッチ、材質、表面の仕上粗さ、さらには温度
によって、かかる軸力はかなり変わってきます。
当然ボルトの長さによっても変わってきます。 一般に金属の強さを表現するのに引っ張り強さ
や破断強度などと称する数値を基準にしますが、これはあくまでもそこで破損する力でしかありま
せんので、実際にはここまでの力をかけることはできません。
●そこで重要になるのが降伏点と呼ばれる数値です。 金属の破断試験をしてみるとわかるのです
が金属にはすべて弾性があり、ボルトで言えばこれが最大になったときにもっとも強力な締結力が
得られるということになります。 簡単にいえばこのポイントが降伏点で、これ以上の力で引っ張
っても今度は伸びるだけです。 試しにボルトを力一杯締めてみて、ネジ切ってみると手ごたえが急に
なくなるポイントがあるのがわかると思いますが、これが降伏点を超えた瞬間となります。
つまり、ボルトの締め付け軸力というのはこの降伏点を基準に考えないといけません。 一般的
にはこの力は引っ張り強さの80%〜90%あたりになります。 このことを頭に入れた上で締め付け
トルクというものを考えてみましょう。
●それで、ボルトの頭部に数字が書いてあるのをよく見ると思いますが、あれが「強度区分」と
呼ばれるもので、それによってわかる強度や締め付けトルクについて書こうと思います。
例として「10.9」と書かれていたとしますと、先頭の「10」の数字は材料の引張り強さそのもの
で、この場合は100kg/mm^2となります。 ですが、金属材料にとって事実上使用できる最高
の力は「降伏点」ですので、それが後ろの数字「9」です。 これは前の数字に対しての比率で
表わされていまして、この場合は「100kg/mm^2の90%」という意味です。
つまり、事実上そのボルトに掛けられる引張り応力は90kg/mm^2までという意味になります。
同じように、例えば「8.8」と書かれていれば「80kg/mm^2の80%」となり、4.8と書かれて
いれば「40kg/mm^2の80%」となります。
また、ウィットネジには「4T」「8T」などと書かれていますが、それぞれを上記の表記に置き
換えますと「4T≒4.8」「6T≒6.8」「8T≒8.8」「10T≒10.9」となりますので、強度検討の
際の参考にしてください。
●具体例を挙げます。 M10×P1.25のボルトで強度区分が12.9と書かれた高力ボルトで考えます。
断面積は通常ネジの呼び径からピッチ分を引いた数値ですので、下径はφ8.75とすると断面積は
60.13mm^2となります。 それに12.9の90%の降伏点数値、すなわち116kg/mm^2をかけますと
6494kg、つまり約6.5tもの軸力がかかることがわかります。
ですが、もちろんこれは「限界ギリギリ」の数値ですので実際にはここまでの力は加えられません。
実際は降伏点のさらに85%程度に抑えて計算すると安全で、これが一般に「保証荷重応力」と呼ば
れています。 この場合では116kg/mm^2×0.85で98.6kg/mm^2となります。
●最後に、この材料の強さとネジサイズから締め付けトルクを導き出す式を書いておきます。
T=K×D×P
T=締め付けトルク
K=トルク係数(通常0.17の定数)
D=ボルトの呼び径
P=ボルトの推奨締め付け軸力(保証荷重応力×ボルト断面積×0.8)
前述の例で挙げたM10×P1.25、強度区分12.9の場合の例でいいますと。
T=0.17×1.0(※cmに置き換えます)×(98.6×60.13×0.8)=806.3kgf/cmとなります。
●ボルトをトルクレンチで締め付ける時の注意点としましては
1)ネジ部にゴミ、錆び、砂、切り粉等がついていないこと。
2)少量の油かスレッドコンパウンドのようなものを塗布すること。
3)1回で勢いよく締めつけないこと。
4)プリセット型トルクレンチの場合は「カチッ」は2回まで。 何度もカチカチやらないこと。
5)年に1度はトルクレンチの校正をしましょう。
※それと、トルクレンチは締め付け専用ですので、けっしてボルトを緩めるときに使ったりして
はいけません。 狂う元になります。
注意) 上記の数値、および記述はあくまで私の経験と参考にしてきた資料によって私が独自
に導き出したものですので、これを保証するものではありません。
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