●スプリングについてのひとこと(2)
●成形法の違いについて
前回からの続きですが、もうバネには熱間成形と冷間成形があるのはけっこう一般にも知られる
事だと思います。
●熱間成形
読んで字のごとく、860〜900°Cに熱したSUP線材をコイル状に成形し、そのまま焼入れ
焼き戻しの一連の熱処理を完了させる方法で、ごく一般的な方法です。
成形後の寸法管理や、形状が安定するために量産向きといえます。
●冷間成形
これは熱間成形に対しての呼称ですので、決して冷やして成形するものではありません。常温で、
という意味です。実際には成形時の変形により発熱するのでけっこう熱くはなりますが。
冷間の場合は基本的にSWPという鋼種を用いますが、早い話がピアノ線です。
種別的にはSWPが一般的ですが、直径10mmを越える大型バネにはSWO等が使われます。
あとはバルブスプリング用にSWO−Vやコバルトを含有したSWOCV等があります。
これらの場合はあらかじめ引き伸ばしや、熱処理によって所定の機械的性質が与えられた線材を
常温にてコイル状に成形するものです。その後ブルーイングといって200°C近辺まで昇温させて、
バネ性を最適な状態にまで持っていく処理をします。
冷間の場合は、若干「巻き緩み」が発生するために、特に大型バネでは安定した品質を維持するのが
難しいのですが、それも最近の技術改良で問題ないレベルにまでなっています。
なお、熱間成形に対する冷間成形スプリングの特徴としては、
1)成形時点ですでに高い応力がかかっており、比較的ヘタリにくい。ただしレートが安定するのに
時間がかかる。
2)初期反発力や、レートのたちあがりカーブが優しく、サススプリングとして使った場合、
乗り心地がよく、結果タイヤや車体にも優しい。
3)品質管理上、あるいは生産数の都合で、大型バネの場合は若干値段が高い。
…等です。
●形状
一般にサスペンション用のバネの形状としていわれてるのが「荒巻き、直巻き」です。
最近流行のバリアブルレートは荒巻きの部類に入り、2段レートの一本モノのバネはレートの
異なる直巻きを2本重ねたものと理解すれば良いでしょう。
バネの場合、一般的な表現では「堅い、柔らかい」で表現しますが、現実としてコイルバネと
いうのは、外部からの入力エネルギーを自らの「ねじれ変形」という形で一時的に蓄え、
一部は熱というかたちで外部に放出しますが、ほとんどは反発というかたちで伸びることにより
エネルギー放出をします。
このエネルギーを吸収するのはショックアブソーバーの役割になるわけです。
ショックアブソーバーの減衰力が縮み側より伸び側のほうが強いのは、このバネの放出エネルギー
を吸収する分が加算されているためです。
さて、荒巻っていうのはレートが一定でなくて、沈み込みの量=荷重によって吸収する部分が
違うので、常にバネ全体の一部分でしかエネルギーを蓄えることができません。
つまり、一巻き一巻きが分担する荷重範囲が異なると考えてください。
当然入力エネルギーをバネ全体で分散できないため、特に初期入力でゴツゴツした乗り味となります。
が、比較的ストロークは稼ぎやすいので、サスペンションストロークが必要な市販車の多くは
このタイプを使用しています。
対して直巻は密着するまでの初期から最大加重までをすべて全体で分散して吸収するため、
突き上げ感や急激な腰くだけ感が少なくなります。そのかわり一巻き一巻きが全て同じ
「守備範囲」しかもっていないため、小レートから大レートまでの複数のバネの役割を担当
することはできません。つまり、用途が限定され、どこを走り、どのような用途に使用される
かがわからない市販車ではそのままでは使いにくいのです。
しかし、エネルギー貯蓄率が高いので乗り心地が良く、用途を限定しての使用では荒巻きの比
ではありません。 そのため一般に同じレートなら直巻のほうが荒巻よりも荒れた舗装路での
乗り心地は良く感じます。
ちなみにダブルスプリングと呼ばれるような直巻を2段重ねたような使い方は、国産車に多い
「巻き数の少ない直巻バネの欠点」であるストローク不足、特に伸び側のストロークを確保し、
接地性を高めることを目的としたものですが、この他にスプリングの重要項目としてプリロード
(初期荷重)というのがあります。これについてはまた後日お話しますが、これを知ったら
現在市販されてる「車高調整サスキット」に多い車高をスプリングのロアーシートで調整する
ことがいかに間違ったものであるかがお分かりいただけると思います。
●追記
なお、バネ性というのは本来金属材料本来の性質ではありません。あくまで形状が問題なのです。
コイルスプリングはあの形状になっているからこそ効率の良いねじれが得られてスプリングと
しての性質を発揮できます。よって、今後もいろいろな性質を実現するために製造法の進化とともに
様々な形状のバネが生まれてくるでしょう。
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