●軽量フライホイールについてのひとこと

●よくチューニングパーツで「軽量フライホイール」というのを売っています。

例えば純正で8kgあるものを3.5kgとかにして、軽量化、慣性重量の低減によってレスポンスを

上げてやろうとするものです。

この理屈を説明されると、交換するといかにもレスポンスが向上してまるでレーシングエンジンの

ようになるような印象になると思って安易につけてしまう方もいますが、軽すぎるフライホイールは

慣性重量がなくなることによってトルクの粘りがなくなるために、かえって乗りにくくなる、或いは

妙に振動が増える、そのわりに謳い文句であるレスポンスの向上はたいして感じられないという結果

になった方が多いのも事実です。

 

本来、クランクの回転慣性はフライホイールだけを考えてはいけないのです。 エンジンを組み込んだ

状態を考えてもらえばわかりますが、クランクシャフトはクランクウエイト、クランクプーリー、

フライホイールと組み合わされてトータルの重量バランスが成り立っていて、これらはメーカーが厳密

な計算とテストの上でトータルバランスの優れたものにしているので、何も考えずにフライホイール

だけを軽くしたって、クランク回転部とピストン/コンロッドの往復運動部の重量バランスを崩して

しまい、その結果、振動が発生し、逆に高回転ではそれがもとでエンジン破損に繋がる危険すらある

のです。 このことはクランクプーリーにも同じことが言えます。

クランクプーリーもこうしたことを何も考えずにただ軽量化したようなものが出回っていますが、

クランクプーリーもフライホイールもクランクシャフトから発生する振動を吸収し、共振を防止する

バイブレーションダンパーとしての機能が与えられております。

つまり、これらをいたずらに軽量化することは、振動の発生を助長させることとなり、それが元で

メタルに対してのダメージや最悪はクランクシャフトの疲労蓄積の増加による破損に繋がります。

よく、軽量フライホイールや軽量クランクプーリーにしたことで特定回転域で振動が発生すること

がありますが、これがまさに共振点が変化し、クランクシャフトが振動している証拠です。

そのままの状態で使用するとメタルの寿命を縮めますので、気をつけることが必要です。

 

●つまり、もしフライホイールやクランクプーリーといったパーツの慣性重量を大幅に減らしたい

場合は、一度エンジンをオーバーホールしてピストンやコンロッド、クランクウエイトの重量バランス

をノーマルよりも2ケタくらいは高精度に取り直すとともに、理想を言えば回転部分の重量を軽減

したぶん往復運動部分、即ちピストンやコンロッドの重量も削減して、往復運動部とクランクAssyの

バランス率を最適にしてやる必要があります。

フライホイールはクランクシャフトの一部であるという認識で、もっと慎重に考えて然るべきと私

は考えています。

また、フライホイールの重量を単純にノーマルと比較して○○kg軽量と表現していますが、重要なの

は1G下での「重量」ではなくて、回転運動させたときの「質量」です。

同じ3kg軽量でも、外周部を削ったときと内周部を削ったときでは回転慣性は大幅に違ってきますから

これらを重視ないとまったく意味がありませんよね。

 

●下の写真はF3000のエンジンのフライホイールで、オールアルミ(A7079)製です。 スターター

ギアがないので市販車のそれとはだいぶ異なりますが、ここまでくるとフライホイールというよりも

単にクラッチプレートとしか言えません。

ですが、これが使用できるのはこのエンジンがこのフライホイールを使用することを前提にクランク

その他の質量バランスの設計がなされていて、もちろん各部の質量バランスもこのフライホイールに

合わせてあるから可能なのです。

つまり極端な話、なんでもない市販のエンジンにこのような極端な軽量フライホイールを使用した

って何もメリットはありませんね。

空吹かしでのレスポンスが向上したって走行性能にはなんら関係ありません。 せいぜいできるのは

暴走族になるくらいでしょうか(笑)

 

●ここまでフライホイールの質量面についてのみ語ってきましたが、最後にクラッチとの兼ね合いを

一言書きたいと思いますが、強化クラッチではノーマルのフェーシング材とは違い、メタル系の摩擦

係数の高い材質が使われていることが多いです。

これらの材質は一般的に「相手材料への攻撃性が高い」と言われていまして、要は自身に自己潤滑性

が少ないことから、摩擦係数と引き換えに相手に溶着、剥離をくり返すことでクラックを生じさせ

たりして、最悪、フライホイールを破損することさえあります。

もともと、なぜノーマルフライホイールは鋳物なのでしょうか。 これは製造コストの面だけでは

ありません。 鋳鉄は炭素含有量が1%〜3%と非常に高く、組織中に黒鉛を多量に含んでいます。

実はこの黒鉛が重要でこれが潤滑剤の役目をして、自己潤滑性を生み、クラッチの断続をスムーズ

にし、フライホイールやクラッチディスクの磨耗を低減させているのです。

しかし、黒鉛が組織中に存在する鋳鉄は、この黒鉛の固まりの部分は鉄組織ではないわけですから

言ってみれば気泡だらけの発泡ウレタンのような構造になっています。しかも、この黒鉛組織は

ちょうど割れたガラス片のようなかたちをしており、この部分がきっかけで割れたり、欠けたり

するのです。 鋳鉄が割れやすいのは単に炭素分が高いこと以外に、この組織上の問題があります。

 

そこで登場するのが球状黒鉛鋳鉄、FCDです。 いわゆる「ダクタイル鋳鉄」というのがそれです。

別名ノジュラー鋳鉄とも呼ばれ、これは前述の鋳鉄の割れ、欠け原因であったガラス片状の形状を

した黒鉛を、文字どおり球状にしたことで、応力の集中がおきにくいことから割れにくく、欠けに

くいものになっています。

現実にダクタイル鋳鉄の板材等は、曲げることができ、通常の鋳鉄のように簡単に折れません。

よく社外品でも「ダクタイル製」などというのがこれですが、正式にはダクタイルとは組織形態の

ことですので、材質名としては「ダクタイル鋳鉄製」と書かなければいけません。

蛇足ですが「ダイキャスト製」というのも同じです。 ダイキャストというのは製造方法を表わす

言葉で、材質ではありません。 正しくは「アルミダイキャスト」「亜鉛ダイキャスト」というよう

に表現しないといけませんね。

 

最後に削り出しフライホイールで多い材質がクロモリ製、いわゆるSCM435やSCM440等を使用した

削り出しものです。 いかにも強いイメージがありますが、これらの材料は炭素分が0.35〜0.45%

程度で非常に少なく、そのため前述した鋳鉄フライホイールの黒鉛のような自己潤滑性能が期待

できません。 ですので、鋳鉄系のフライホイールよりもクラッチ操作がシビアになる傾向があり、

またクラッチ操作が下手な人だと表面を焼いてしまうことがあり、結果として表面にクラックを生じ

させやすい材質ですので、あまり運転に自信がない方は避けたほうがいいかもしれません。

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