●エンジンの水冷(液冷)冷却系統についてのひとこと

●エンジンは燃焼によって生じる熱エネルギーを出力として取り出す機関ですので、当然ながら

パワーが上がると発熱量も多くなるので冷却系のチューニングをすることになります。

まぁ、レーシングエンジンレベルのようなハードチューンはまた別として、せいぜいノーマル比

150%程度までの出力レベルですと、それほど根本的に手を入れることもなく、対応できることが

多いです。

そこで、よく一般的に手軽におこなわれる冷却系のチューニングパーツについて書きたいと思います。

 

●高圧ラジエーターキャップ

これはただ交換するだけで手軽ということで、よくおこなわれるものです。

一般的には0.9〜1.1kg/cm^2の開弁圧のものを1.3k〜1.5k程度に上げている場合が多いようです。

この水冷系統の内圧を上げるということは、冷却液の沸点を上げるのが主な目的ですが、ここで

考えていただきたいのは、沸点が上がるだけで決して水温そのものが下がるわけではないという

ことですので、根本的な冷却性能が向上するわけではありません。

たしかに圧を上げることでキャビテーションを減らすなどの期待はできますが、それとて僅かなもの

ですし、この内圧を上げることは同時に冷却系統のホースやシール類にそれだけ大きな負担をかける

ことになることをよく理解していただく必要があります。

加圧式冷却システムに於いては、暖機が終わってからは圧力が常に冷却系統にかかり続けています

ので圧を上げるとそれだけ高圧の状態になる時間が長くなることで考えている以上に負担は大きく

なります。

これは単に圧力が上がるだけではなく、冷却系内は冷えればまた減圧しますので、高圧と減圧を

くり返すことによる圧力幅が大きくなることから、くり返し疲労が各部の寿命を縮めることに繋がる

からです。 結論としてその効果とかかる負担とのバランスを考えると少なくとも街乗りメインの

車には必要性はないと私は考えます。

 

そもそも0.9K(大気圧を加算した絶対圧では1.9K)でさえ沸点は約119度(これは水の場合で、

実際のLLCの場合は濃度によって沸点はさらに上がる)になります。 つまりこの0.9Kのキャップ

でも吹出してしまうようであれば、その時点ですでに水温は120度以上の温度になっていることに

なりますので、それより高圧なキャップにしたところで過熱状態が改善されるわけではありません。

ですのでこの沸点でも足りないようならキャップ以前にラジエーターの放熱カロリーそのものが

不足しているなど、冷却系のバランス自体を根本的に見直さないと意味がありません。

高圧ラジエターキャップは「オーバーヒートしない」ではなく「オーバーヒートしても吹き出しにくい」

だけで、むしろ水温が過度に上がっても吹出さないことからヒート状態を見過ごしてしまい結果と

してエンジンをより高温、高圧の状態で酷使することにもなりかねないので、かえってエンジンに

負担を強いることに繋がるのです。

人間の体にたとえれば、風邪などで38度の熱が出た時点で休ませなければならないところを、それ

に気づかず、さらに熱が上がって40度になってもまだ休ませずに無理をさせるようなものです。

 

それと冷却水内で発生する気泡についてですが、気泡といってもウォーターポンプベーンの裏側の

減圧で発生するいわゆるキャビテーションと、タービンハウジングやヘッドの排気ポート周辺の

とくに高温になる部分で局部的に起きる表面沸騰によるものがあります。

このうち、後者の表面沸騰ですがこれはサブクール沸騰と呼ばれる現象で、局部的に沸点を超える温度

の部分で部分的に冷却水が沸騰するのですが、これは決して悪いことではなくこのサブクール沸騰状態

になることで通常の流水状態での冷却の数倍の熱を奪うことができるので、むしろ熱交換効率は向上

するのです。 エンジンの冷却系の設計はこうしたこともトータルで考えておこなわれているのです。

ですので下手に高圧のラジエターキャップをつけたり、LLC濃度を上げすぎたりして沸点を上げるとこの

サブクール沸騰を発生させにくくしてしまい、かえってオーバーヒートを誘発することさえあります。

 

実際のところ上記で0.9Kのキャップの水の沸点が約119度と書いていますが、これを1.3K、つまり

圧力比で約44%(絶対圧比では約21%)も上げても沸点向上効果は僅か6度程度しか上がりません。

勿論、この「僅か6度の差」が重大な結果に繋がるような、限界状態で酷使されるレーシングエンジン

ならば「非常に大きな6度の差」になりますが、街乗りメインで使用し、たまに飛ばす程度のエンジン

にとっては常時かかる圧力増大による負担とのバランスを考えると必要性があるとは思えないという

のが私の考えです。

ちなみに一部のレース用ターボエンジンに於いては、ターボのブースト圧を利用して冷却系内に圧力

をかけて発熱量の多くなる高ブースト時のみ重点的に圧力を高め、とくに高温となるターボ周辺や

燃焼室周辺の部分沸騰を抑えるというギミックもあります。

なお、LLCは真水よりも沸点は上がりますが比熱は下がります。 つまりどんなに高性能なLLCで

あっても真水より熱交換効率そのものは必ず低下します。これについては後述します。

 

ちなみに最近の設計のエンジンは0.9Kというのはだんだん減ってきて、純正でも1.1Kのものが

増えてきてますが、これはエンジンの熱効率向上のために最適な運転温度域が昔よりも高くなって

いることも理由にあります。

エンジンは熱エネルギーを動力に変換する機械ですので、冷却するということはただの損失でしか

ないわけですので、材料が持つ限り、また、ノッキングなどの異常事態が起きず、潤滑に問題が

生じない限りはできるだけ高い温度で運転させてやったほうがそれだけ多くの熱エネルギーを動力

に変換することが望めます。

つまり、そのほうが同じ出力を出すのであれば燃料消費も減りますので燃費も向上しますし、燃料

消費が減るということはCO2の発生も減るということになるからです。 ですので最近のエンジン

はみな通常運転時から比較的温度が高くなるようになっているので、それにあわせてキャップの

開弁圧も高めになっています。

また、その他スタイル優先でエンジンルームのレイアウトや冷却に無理がある一部のスポーツカー

など、局部的に熱が溜まってしまう構造の車で対症療法的に仕方なく高圧のキャップを使用して

いるものもあります。

●キャップ開弁圧と真水の沸点の関係(概算値)

開弁圧(bar)
0.9
1.1
1.2
1.3
1.5
沸点(°C)
119
122
123
125
127

 

ちなみに、この高回転でのキャビテーションの発生を抑えるために、わざとウォーターポンプの

回転数を落とすこともあります。

ですが、個人的には根本的にウォーターポンプのベーン形状を変え、キャビテーションの発生

しにくい羽根形状にしたほうが有効だと思います。

市販のエンジンのウォーターポンプは単純にプレス型で折り曲げられただけの単純な形状のもの

が多いですので、これをきちんと流体力学に基づいた、たとえて言えば、ターボチャージャーの

インペラのような3次曲面でつくられたものに変えるだけでもかなり違ってくるはずです。

潜水艦のスクリューなどはキャビテーションを防ぐ意味では究極の形状とも言えるかもしれません。

 

●ローテンプサーモスタット

これも一般によく見受けられます。 要は純正のサーモスタットよりも開弁温度を下げること

でより低温からラジエーターに冷却液を循環させることで、冷却水のピークに達するまでの時間

を稼ぐことができるというものですが、これも本当に水温が上がってしまうと意味をなしません。

冷却というのはただ冷やすことが目的ではなく「どんな状況に於いてもエンジンの温度を適切に

安定に保つ」ことが最重要なので、理想から言えば、普段の街乗りでも100度、どんなにパワー

をかけて走っても100度というようにピッタリ安定していることこそが理想なのです。

むしろ、普段は水温が低く、パワーを出すとグンと上がってしまうような不安定な状態では

エンジンの燃焼状態が不安定になるばかりか、エンジン本体の各部品がその都度膨張、収縮を

繰り返すことで無用なトラブルの元にもなります。

それに平常時から水温が低くすることは、エンジンの最適温度域を外していまい、シリンダーの

クリアランスなどが適正でないためにブローバイの吹き抜けなどが多くなり、しかも温度が低い

ことからブローバイに含まれる水分や生ガス分の揮発が悪化することから、それがオイルを希釈、

汚染し、エンジンオイルの寿命を縮めることにつながります。

また、温度が低いと燃料の霧化効率、気化効率も低下し、これも燃焼に悪影響を及ぼし、燃焼室

などへのカーボンの堆積を促進させたり、燃費やドライバビリティの悪化に繋がります。

さらに、とくにターボエンジンの場合、水温が低めに保たれた状態から急激に加速するときなど

はタービンハウジングのみ局部的に急激に水温が上昇し、部分的に沸騰します。

これが全体の水温が高い状態であれば冷却系内の圧力が高まっているため、この沸騰によって

生じた気泡もすぐに吸収されますが、全体の水温が低い状態だと冷却系内の圧力が低いために

この沸騰が抑えられずに、かえって冷却効率が低下し、タービンを焼き付かせたりすることさえ

あるのです。

水温が低い状態というのはエンジンにとって決して良いものではないということです。

人間の体の体温もちょうど良い温度範囲に自動的に調整されていることで正常に機能しています

が、エンジンもこれと同じことです。 低すぎても高すぎても問題が生じるのです。

いずれにしても、これも高圧ラジエターキャップと同様に、根本的に冷却性能が上がるわけでは

ありませんので、開弁温度を下げることに何の意味があるのか理解することが重要です。

むしろ、流路抵抗のほうに重点をおき、開弁時の抵抗の少ない形状のサーモスタットにするとか

サーモスタットケースを独立させて、サーモスタットを2個並列につけて全開時の抵抗を減らす

などの工夫をしたほうが効果があることが多いです。

水冷系統においてサーモスタットは最大の流路抵抗になっていますので、開弁時の抵抗をなるべく

減らす工夫をすることは効果があると思われます。

もし極限に冷却性能を高めなめればならない場合は極端な話、暖機に支障が出てもサーモスタット

を外してしまうくらいの思いきりも必要かと思います。

 

●ラジエーター本体

これは根本的な冷却能力の向上につながるパーツです。 言うまでもなく放熱カロリーの高い物

に交換するということです。

とは言え、ノーマルのエンジンルームに収める以上、極端に外寸の大きいものはつけられません

ので、限られたサイズでできるだけ放熱性の高いものを選択することになります。

そのため、よく「何層」などと重ねることが多いですが、当然のことながら2層目や 3層目のコア

はすでに熱せられた空気しか当たりませんので、思ったほど効率は上がらないのが実情です。

具体的に書くと1層目の冷却効率を100%とすると、2層目では25%増程度、3層目では20%増

程度がいいところです。

さらに街乗りの車輌の場合は、ラジエーターと同位置にエアコンコンデンサーやオイルクーラー、

エアコンコンデンサー、インタークーラーなどがつくために、ラジエーターはけっこう厳しい

条件になっていることが多いですので。

とは言っても、多層化によって総合的な水量が増えることは水温の急激な変化が抑えられるので、

水温を安定させるという意味では無意味なわけではありません。

クルマにもよりますが、一般的にはフロントグリルから入った走行風のうち有効にラジエーター

の冷却に寄与するのはせいぜい30%程度と言われています。

ラジエーターにもいろいろなタイプがありますが、単純に純正の容量を増しただけのものから、

より冷却水の冷却時間を稼ぐことができるサイドフロー(サイドタンク)のもの、さらにそれを

縦に2段重ねたかたちのターンフローのものまで様々です。

材質的なものでは、純正と同様のアルミ製と銅製、真鍮(黄銅)製のものがあります。

よく真鍮製はアルミ製よりも放熱効果が良いと言われますが、これは微妙で、実際は材質的な

熱伝導率で比較するとアルミ合金製と真鍮製はほとんど変わりません。 ですので、軽量なぶん

アルミ製のほうがメリットになりますので、真鍮製には意味はありません。

本当に熱伝導率を高めたいのなら真鍮ではなく、銅でないとダメです。 ちなみに銅と真鍮では

熱伝導率では3倍以上も違います。 どうも銅製と真鍮製を混同している方が多いようです。

ですので、個人的にはアルミ製に銅メッキ(無電解銅メッキ)をするのも面白いと思います。

表面を塗装する場合は、銃器の塗装に使われるような放熱効果に優れる塗装をすると良いでしょう。

なお、色は黒がもっとも良いです。 黒は熱を吸収しやすいイメージがありますが、同時に熱を

放散しやすい色でもあります。要するに熱交換効率が高いのです。

もちろん、表面はサンドブラストをかけて少しでも表面積を増やしたほうが有効でしょう。

ただし酸化には注意が必要ですので、アルミの場合はアルマイト、銅等の場合は塗装して保護

してやることが必要です。

 

●サブタンク

要は冷却系統のもっとも高い位置に取り付けるエア抜きタンクのようなものです。

実際に有効なようですのでレーシングカーでもよくおこなわれておりますが、これも、これ自身

で冷却性能が大幅に上がるわけではありませんし、これの効果はタンクそのものではなく、その

タンクにどの部分からどういうふうに配管を引っ張ってくるかということが効果を左右します

ので、ただついていればこれで安心という類のものではありません。

エンジンの冷却系は複雑なので、気泡の多く発生する場所と発生しにくい場所というのがある

ので、より気泡の発生しやすい場所、あるいはより気泡の溜まりやすい場所から効率的に配管を

引いてこないと大きな効果は望めません。

 

●冷却水

通常、市販車はLLC、つまりロングライフクーラントを適宜希釈して使用しています。

ですが、地球上の液体でもっとも比熱が高いのは純粋な水ですから、どんなにすぐれた冷却液

でも真水には及びませんので、たとえばレースなど限られた期間だけという条件であれば真水が

一番冷却効率は良いです。

もちろん原子炉などで使用されている重水ならもっと良いですが、これは現実的ではありません。

とはいえ真水では冷却系内が錆びますし、ポンプのシール類に対しての潤滑効果も落ちますので

少なくとも街乗り車では使用すべきではありません。

なお、水をそのまま使用するにしても、LLCで希釈して使用するにしてもいわゆる「天然水」は

使用すべきではありません。 これは硬度以前に天然水には鉄分やカルシウム分など、程度の差

こそあれ不純物が多くありますので、これがエンジン内部を腐蝕させたり、堆積したり、シール

などを損傷することがあります。

ただし、たとえば出先で水漏れなどを起こして、応急的にミネラルウォーターなどを使うのは

やむを得ないでしょう。

ただし、修理が終わったらすぐに正規のクーラントに入れ替えることが大切です。

なお、LLCにはエチレングリコール系とプロピレングリコール系がありますが、一般には後者の

ほうが高性能とされております。 また、プロピレングリコール系のほうが毒性も低いので

環境には優しいとされています。 ただ、実際の性能(単に冷却性能だけではなく、長期使用の

安定性など)は製品によって性能はまちまちだと思いますので一概には言えません。

 

●オイルクーラー

これはエンジン内部を直接冷却するオイルを冷やすためのものですので強化することは有効です。

ですが、水冷エンジンのメインはあくまで「水冷」ですので、大きなサイズのオイルクーラーを

つけたからと言って冷却が充分におこなわれるものでもありません。

と、言いますのも、エンジンをパワーアップしていくと当然ながら発生熱量が増えますが、この

熱の80%はシリンダーヘッドで生じるものです。

ここでエンジンオイルの系統をヘッドとブロックに分けて考えるとわかりやすいのですが、

たとえば、パワーが上がることにより爆発圧力が上がりますので、クランクメタルやコンロッド

メタルに対する負担は大幅に増えます。 これに対処るすために油圧を若干上げたり、オイル吐出

を増量したりして油膜の強化をおこないます。

ですがヘッドの潤滑、つまりカムやタペットの負担はエンジンパワーが増えても関係ありません。

200馬力のエンジンを400馬力にチューンナップしたからといって、カムシャフトやタペットに

対する負担は同じなのです。

(もちろん、バルブスプリングを強化したり、ハイリフトカムに換えた場合は負担は増します)

もともとヘッドへ行く油量はオリフィスによって制限されていますが、仮にヘッドへ向かう油量を

悪戯に増やしても、オイル下がりや、ヘッドからのリターンが追いつかなくなったりしてかえって

思わぬトラブルの元になりかねません。

つまり、パワーアップによるヘッド温度の上昇に対しては、オイルクーラーの強化はおのずと限度

があるということです。 水冷エンジンの冷却の主役はやはり水(クーラント)のほうをメインに

対策することが重要です。

 

●最後に

冷却というのはただ冷えればいいという訳ではなく、いかに安定した温度に保つかが重要です。

そもそもエンジンというのは燃焼によって得られた熱エネルギーを動力として取り出す機械なので

冷却するということはそれ自体非常に無駄な損失なのです。

エンジンにとってもっとも効率よく運転できる温度をいかに安定して維持するかが冷却系統の仕事

ですので、たとえば低負荷時と高負荷時で大幅に温度が上下するようではエンジンにとって良く

ありません。 それは、たとえばヘッドやブロックの合わせ面を歪ませてガスケット抜けをおこす

原因になったり、或いはとくに長い直列6気筒エンジンなどでは各シリンダーの温度のバラツキを

生むことになります。

繰り返しになりますが「いかに冷やすか」ではなく「いかに温度を安定させるか」ということですね。

 

※注釈

一般的にはオーバーヒートの定義はラジエーターから冷却水が吹出すことを指して言うことが

多いようですが、私の場合はそれ以前の段階、即ちエンジンが熱ダレを超えて過熱状態となり

本来の性能が発揮できなくなった時点でオーバーヒート状態と考えております。

たいていの場合このような状態になるとヘッドやブロックが歪み(とくにアルミブロックのエンジン

は要注意)ガスケット吹き抜けなどの危険度が高くなりますし、また、ECUが点火時期を遅らせたり

などフェイルセーフの対応をするようになります。

一度オーバーヒートして歪みが生じたエンジンは面研して修正しても、熱が入るとくり返し歪み

が生じるので交換以外に根本修理の方法はありません。

エンジンをいたわるならこうなる前に熱ダレを感じた時点でクールダウン走行する必要があります。

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