●ボディの材質と剛性についてのひとこと

●市販車のボディ(フレーム)はほとんどが鋼鈑(SPCに代表される低炭素圧延鋼鈑)でできて

いますが、最近はアルミをメインにした軽合金のものも増えつつあります。

 

まずは鋼鈑製のボディについてですが、ここ15年〜20年ほどの同じクラスのクルマの車体重量を

カタログなどで見比べていただければよくわかりますが、現在のクルマはとても重くなってきて

います。

昔は2000ccクラスのセダンでも1トンちょっとでしたが、現在はだいたい1.3トンはあります。

もちろん、これには車体の大型化や装備の充実などもありますが、やはり大きいのはドンガラの

ボディ(ホワイトボディと言います)自体が重くなったことによります。

軽自動車でさえ、もう1トンに達しようかという状況ですので、これはかなりのものです。

その理由は言うまでもなく、衝突安全性の向上や、ボディ剛性の向上を目指したことによるもの

で、一例で言いますと、現在のランサーエヴォリューションやインプレッサWRXなどは、89年

デビュー当時のR32スカイラインGT-Rに相当する重量になっています。

 

もちろん、メーカーもただ重くなっていく車体について何もしないわけではなく、とくに国産車

は世界的に見ても同じクラスであれば軽量なクルマを造ることが得意ですが、ここ最近とくに

高張力鋼鈑、さらに強くした超高張力鋼鈑を多用することで、すこしでも鋼鈑の肉厚を薄くして

質量を減らすようにしています。

ちなみに、高張力鋼鈑というのはその名の通り、張力(引っ張り強さ)を高めた鋼材ですが、

合金鋼のように熱処理(焼き入れ)によって張力を高めたものではなく、素材の時点で(ジュラ

ルミンなどと同様、固溶化処理、時効硬化処理などによるものです)すでにそれだけの張力を

持っているものです。 しかもただ強いだけでなくプレス成形に耐えられるだけの伸び、つまり

圧延性も伴っていなければなりません。

単純な話、たとえばそれまで引っ張り強さが30kgf/mm^2だったものを50kgf/mm^2にでき

れば同じ強さを持たせながら質量を60%にすることができるので、それだけ軽量化できるわけ

です。

それならば、ボディのすべてを高張力鋼鈑で造ればかなり軽くなると考えますが、そうはいかない

のが金属材料の面白いところです。

 

ここで引っ張り強さの話が出てきましたが、この引っ張り強さは「強度」の向上には貢献するもの

の、「剛性」の向上にはほとんど貢献しないのです。

この「強度」と「剛性」というのは似ていて実はまったく異なるもので、考え方でいうと、衝突

安全性に求められるのが「強度」、走行性能に要求されるのが「剛性」ということができます。

(もともとモノコックボディというのは走行中の入力をボディ全体に分散することで全体の剛性

を保っておりますので、逆に言うとフルフレームシャーシに比べると衝突のように局部的な入力

には苦手な面があるのです)

乱暴な言い方をすると「強度」に必要なのが「引っ張り強さ」であり、「剛性」に必要なのは

「弾性係数」なのです。 ※ちなみに、この「強度」という言い方も正しくはありませんが、

感覚的にわかりやすくするために使用しいますのでご容赦ください。

ところがこのボディ剛性に必要な「弾性係数」というのは、基本的に金属の比重、つまり密度に

比例するところがあり、これについては通常の圧延鋼鈑も高張力鋼鈑も同じなのです。

つまり、メインフレームやフロアパネルといった主たる剛性部材に高張力鋼鈑を使用しても

同じ剛性を保とうとすると同じ板厚のままのため、結局は軽量化にはならないのです。

つまり、こうした箇所については同じ構造、形状であれば剛性を上げるには単純に板厚を増す

しかないわけです。 ですのでこのへんが鋼鈑ボディの軽量化の難しさでもあります。

 

次にアルミボディについてです。

量産車で最初にオールアルミボディを採用したのは言うまでもなくホンダNSXですが、これは

どちらかというと「材質の置き換え」に重点を置いたもので、それまでの鋼鈑ボディの構造のまま

ただアルミ化しただけとも言え、現在のレベルで見るとアルミならではの物性を活かした構造とは

言い難いものがあります。

これについては、その後の同社のインサイトや、アウディなどを見ればわかりますが、アルミの

もっとも得意とする押し出し成形材を多用し、キャスト製のジョイントパーツで鳥カゴ状にした

半スペースフレームのような構造を採っています。

これはまさにオートバイのアルミフレーム構造をそのままクルマに利用したかたちであり、個人的

にはオートバイメーカーであるホンダがなぜNSXの時点でこの構造を採用しなかったのか不思議な

くらいです。

 

ここで、鋼鈑ボディでも出てきました「剛性」についての話ですが、上記でも書きましたように

剛性に重要な弾性係数は基本的に素材の密度に比例しますので、アルミの場合は鋼鈑の1/3程度しか

ありません。

つまり、それだけ厚い材料を使用する必要があるわけです。 ただし、これは素材面で見ただけの

話であって、実際には構造的に剛性を高めることが可能であることは言うまでもなく、前述した

ようにアルミならではの特性を活かし、鋼鈑ボディではできないような構造を採ることで、できる

だけ重量増を抑えながら高剛性を実現することが求められるわけです。

とは言え、市販車である以上は、居住空間などの空間効率を無視した構造にすることはできません

ので、昔のレーシングカーのスペースフレームのような構造にはいきません。

現在のところでは鋼鈑ボディに対してせいぜい40%程度の軽量化にすることが精一杯ではないか

と思いますが、それでもかなりの軽量化と言えると思います。

 

ちなみに上記NSXのホワイトボディの重さは約210kgと聞いていますが、もし、これをスチール

で造ったとするとどうしても300kgを超えるでしょう。

しかし、NSXが設計されたのはもう20年近くも前の話です。 前述のようにまだアルミの特性を

活かした構造ではなかったため、現在のレベルで見ればけっこう無駄のあることも事実ですので

これを現在の技術で設計したならばあと50kgは軽くできるのではないかと思います。

ちなみに、NSXのボディに使用されているアルミは強度部位には塗装焼きつけ時に固溶化現象に

よって硬化促進される6000系のHACF60S、HAZ6083という一般に流通しているものとはやや

異なる素材を使用、その他は5000系の5052、5182などの材料が使用されているとのことです。

 

さて、ここでもうひとつつけ加えたいことは、アフターパーツでも多いタワーバーやフロアバー等

の補強系のパーツです。

これらのパーツはスチール、アルミ、チタン、カーボン製など材質はさまざまですが、当然、

これらのパーツもボディ剛性を上げることが目的である以上、重要なのは「弾性係数」となります。

ですので、単純に考えればこの中でもっとも弾性係数が高いのはカーボンファイバーで圧倒的です

が、その他はスチール>チタン>アルミとなります。

つまり、本当に剛性アップを図りたい場合はアルミ製(ジュラルミン含む)ではなく、スチール製

のほうが良いと言えるわけです。

とは言え、最終的な製品の剛性そのものは、形状によって決まる部分も多いことも事実です。

物質を曲げたりする力は物の表面に集中しますので、当然ながら肉は薄くても断面形状や構造に

よって剛性は確保できますので、このへんのバランスを考えていくと、比重の重い材料を使用

したほうがメリットがあるのか、逆に比重の軽い材料を使用したほうがいいのか、難しい分岐点

に悩むことがあります。

市販車では軽量化のためにアルミ鍛造のサスペンションアームなどが多用されますが、逆に

レーシングカーなどではほとんどがSCM435などの構造用合金鋼(当然、組み立て熔接後に全体

を熱処理します)を使用します。

スリックタイヤなどの強大な応力を受け止めることを前提に考えると、高力アルミなどで製作

するよりも、かえってクロモリなどで造ったほうが軽量になるうえ、疲労破壊などにも有効だから

です。

 

●大事なのは、ボディ剛性というのはいたずらに高ければいいというのではなく、「剛」と「柔」の

バランスが大切です。

仮にまったく歪みのないボディ剛性を持った場合、路面からの影響や、ステアリング操作などで

生じる車体のレスポンスがシビアになりすぎて、運転が非常に難しくなってしまい、かえって

速く走るどころの騒ぎではなくなってしまいます。

タイヤでたとえると、グリップ限界は非常に高いが滑りだすと一気にスリップするようなピーキー

なタイヤよりも、多少グリップ限界が低くても、滑り出しが穏やかなほうがコントロールし

やすく、結果、安定して速く走れるのと似たようなものです。

結局、クルマは人間がコントロールするものですので、ある程度の「曖昧さ」を残しておかないと

人間の反応速度をクルマが超えてしまうわけです。

クルマではフォーミュラカーをはじめとしてカーボンモノコックが当たり前になっていますが、

リアフレームはエンジンを含めてアルミ(orマグネシウム)になっていますし、レース用のバイク

でさえフルカーボンフレームというのはまだ実用にはなっていません。

この理由は前述のように、剛性をただ高くするだけならば簡単ですが、それをコントロールする

人間が扱いやすいかというと決してそうではないからです。

剛性というのは適度にしなってくれることこそが重要と言えます。

その意味では、釣り竿に使用されるカーボン系複合素材というのは最先端と言えるかも知れません。

釣り竿はまさに「剛さ」と「しなり」を両立しなければならないので、かなり進化が早いと思われ

ます。

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