●コイルスプリングのバネ材についてのひとこと

●バネの話については、この「ひとこと」の初期の頃にも書いたので、今回はそういう

ことではなくて、最近社外品でもよく使われるようになった「高応力バネ材」に

ついて書きたいと思います。

 

以前にも書きましたが、バネの計算をしている人ならばわかると思いますが、バネの

性能についてはほぼ100%設計によって決まるので、比重(=密度)の同じ鋼材を

使用している限り、高い応力をもった材質を使用したからといってヤング率が上がる

わけではないので、バネの性能そのものは変わりません。

このへんをけっこう勘違いされている方が多く、材質が変わるとバネの性能も大きく

変わると思われている方がいます。

実際のところ、材質だけではなく、製法、熱処理の工程などで微妙に特性は変化しま

すが、スペックとしての性能はまったく変わりません。

ただ、考え方として、そのバネが今までと同じ設計であったとした場合、より高い

応力の材料で造りなおすということは、それだけ余裕が生まれますので、そういう意味

では「ヘタリにくくなる」ということが言えます。

というか、それしかメリットはありません。

 

では、なぜ高い応力の材料が求められるかというと、根本的には自動車メーカーから

の要求によるものです。

ボディでたとえれば、今まで高張力鋼鈑だった部品を超高張力鋼鈑にすることで従来

よりもより薄板化することができて、それが軽量化につながります。

(勘違いしないでいただきたいのは、これは引っ張り強さが上がるだけで、剛性について

は変わりません。 ボディのすべてを超高張力鋼鈑にしないのは、無駄な部分に使っても

しかたないからです)

高応力バネ材もまったく同じで、要するに今までよりもより高い応力をもったバネ材に

することで、従来と同じ安全率(=耐ヘタリ性、耐損傷性)を確保した場合、より少ない

材料の使用量で済むことから、バネそのものをコンパクト、軽量化できます。

つまり、このことでより車体側スペースのほうに余裕が生まれ、より車体設計に自由度

が出るということになります。 これが高応力鋼材の最大のメリットです。

 

●ただし、これも以前にも書きましたが、金属スプリングの場合は応力が高くなる設計

をするとそれだけ反発力も大きくなるので、乗り心地では不利になります。

反発力が大きくなればそれを吸収するためによりダンパーの減衰力を高くする必要が

出てきて、これも乗り心地をさらに悪化させる要因となります。

 

スプリングというのは縮んで伸びるまでの間はエネルギーを溜め込んでいる状態なわけ

ですので、材料の体積の大きいほうがより余裕をもってエネルギーを吸収し、ゆるやか

に発散することができます。 だから、同じバネレートでも巻き数の少ないスプリング

よりも巻き数の多いバネのほうが乗り心地が良くなるわけです。

また、そうすることでセット荷重もゆるくできるので、これも乗り心地に好結果を与えます。

しかも、バネレートは同じなので、ストロークに伴う「ふんばり」は同じなわけです

ので、乗り心地とロールしたときの踏ん張りなどが両立できるわけです。

ですので、バネの性能として考えれば巻き数の多いほうが有利なのですが、当然ながら

重量面、スペース効率の面からは不利になります。

 

●コイルスプリングやトーションバーはそのねじれによってバネ性を出しています。

このようにねじれ応力を受ける用途の場合、線材の深部まで均一に焼き入れが施されている

ことが重要となります。

当然のことながら線材が太くなればなるほど、表面に比べて中心部の焼き入れ時の冷却速度

が落ちるため、焼き入れ性の悪い材料では表面は目的の硬さが得られても中心部は柔らかい

ままということになります。

一般的な機械部品の場合は、このことはむしろ表面の圧縮応力を生むので耐疲労性に対して

好都合に働くこともあるのですが、ねじれ応力の場合はこうした焼き入れの不均一はヘタリ

を生み、最悪は破損につながります。

ですので、線材が太くなるほど焼き入れ性の高い材質=冷却速度が低下しても焼きがしっかり

入る材料が必要になってくるわけです。

こうした理由でSUP材は数字が大きくなるほど様々な合金元素が添加されているわけで、

その線材の太さによって選定するわけです。

こうした合金元素はすべて、この焼き入れ性の向上のために入れられているわけです。

今回、取り上げた高応力材料も、こうした焼き入れ性の向上を図ることで、より深部まで

均一に焼きを入れて、引っ張り強さを全体に向上させることでその目的を達成している

わけです。

 

●このように、どんなに高級そうに思える材料を使っていても、それだけで高性能なバネに

結びつかないということをよく理解する必要があります。

バネの特性、性能というのは材質で決まるものではなく、あくまでも設計で決まるものです。

メーカーの過剰な宣伝に踊らされないようにしましょう。

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