●「高回転型エンジン」についてのひとこと
●このタイトルでもっとも比較しやすいのはバイク用のエンジンと自動車用エンジンを
比べることでしょう。
市販の車用のエンジンでは、とくに高回転型と呼ばれるものでもレブリミットはせいぜい
9000rpm程度です。 対してバイク用のエンジンでは市販でも16000rpmを超えて使用
可能なものも普通にあります。
これはエンジンの出力を高めるためで、最高出力というのはトルクと回転数で決まります
ので、同じトルクであればできるだけ高い回転数で最大トルクを発生させたほうが最高出力
が高くできるからですが、多くの場合、そのぶん低回転でのトルクが犠牲になります。
バイクの場合は車体が軽いこともありこのような高回転指向のエンジンでも、たとえば
5000rpm以下のトルクはある程度犠牲にしてもたいして問題はありませんが、バイクの
数倍〜10倍も重量のある車では、いくらスポーツエンジンと言えども普通に街乗りをしな
ければならない以上、またアイドリング回転数や巡航時の回転数もできるだけ低くしなけれ
ばならない以上、最高出力を上げるためだけに実用域である2000rpmとか3000rpm付近
の低速トルクを犠牲にはできません。
とくに現在のようにあらゆる意味での「環境性能」が求められる中ではこれはメーカーの
責務であると同時に、こういった性能こそが技術力の高さを競う部分でもあります。
極端な話、F1のエンジンであれば、走り出してしまえばまず10000rpmを切ることはありま
せんので、10000rpm以下の回転でのトルクなどどうでもいいのです。
しかし、市販車の場合は発進時のごく低い回転数から、最高出力までの広い回転域でできる
だけ高いトルクを維持することが重要となり、これが現代の高性能スポーツエンジンに求め
られる特性となっています。
もちろん、最近はVVTなどのオーバーラップの連続可変は当たり前で、バルブプロファイル
の可変システムも段階的なものから連続的なものへと進化してきており、また、可変吸気管
長システムをはじめとした吸排気の制御や、ターボチャージャーなどもより低い排圧から過給
できるよう改良されたりして吸排気全体あるいは燃焼などの解析が進んでいることから、同
程度の排気量、および同程度の馬力であっても、昔のエンジンに比べてより低速トルクが大きく
なって(=トルクバンドが広くなっている)います。
とはいえそれでも使用できるすべての回転域、負荷域で最適化できるまでにはなりませんので
基本的な特性そのものは変わりません。
私は市販車でいう本当の高性能エンジンというのは、やはり最高出力を上げながらもいかに
低速からトップエンドに近い広い範囲で大きなトルクを維持することができるかということに
尽きると思います。
同じ排気量で比較した場合、ある回転数でのトルクが大きいということはそれだけエネルギー
を有効に動力に変えることができていると言うことですので、広い範囲で大きなトルクを発生
できるエンジンほど効率の良いエンジン、つまり高性能なエンジンと言えるのです。
低速トルクを犠牲にしてただ高回転での馬力を上げただけのエンジンは、少なくとも現在と
なっては高性能とは言えません。
●さて、ここからが本題ですが、一般に「高回転型エンジン」というとどうしても回転数だけ
から比較、判断されがちです。
上記のバイクエンジンと車エンジンでは「バイクのエンジンのほうが回転数が高いのだから、
バイクのほうが高回転型である」と言われる方もいますが、この単純比較の方法は間違いです。
そもそもレシプロエンジンにおける高回転かどうかは回転数で比較するものではなく
「ピストンスピード」で比較するものです。
これについてはレシプロエンジンの基本なので、ここで詳しく書く必要はないと思いますが簡単
に書いておきますと、ピストンは往復運動しておりますので、上死点と下死点で速度は0となり、
ストロークの中央付近で最大になります。この平均を出したものが「平均ピストンスピード*」
と呼ばれており、この数値でそのエンジンが高回転型かどうかを考えるのが合理的です。
たとえば600cc程度のバイクの4気筒エンジンを例に、ストロークが45mm程度と仮定した
場合、回転数15000rpmの時の平均ピストンスピードは22.5m/secです。
車の場合ですと、たとえば具体的な車種を挙げて比較しますとランエボの4G63エンジンの
場合、レッドゾーンは7000rpmですので、これだけ見るとたいして高回転型とは言えません。
しかしこのエンジンはストロークが88mmもあります。 これで計算すると7000rpm時の
平均ピストンスピードは20.5m/secにもなります。
つまり、回転数だけ見ると倍以上も開きがあるにもかかわらず、ピストンスピードはたいして
変わらないのです。
ちなみに、エンジンオイルが対応できるピストンスピードの限界というのは通常は22m/sから
25m/sと考えられていますが、適切な設計、製造がなされて条件さえ良ければ現在は29m/s
あたりまでは対応できると言われています。 F1のエンジンなどがだいたいこのくらいの
ピストンスピードで設計されていると言われています。
結局、レシプロエンジンにとってもっとも油膜が切れやすいのは連続回転部分ではなく、やはり
往復運動する部分ですので、高回転型かどうかというのは回転数ではなくピストンスピードで
比較するのが妥当だと思います。
また、同様にクランクシャフトのジャーナル部の外径も関係します。 これも同じ回転数で
あれば径の大きいほうが当然ながらメタルと摩擦する外径の「周速」が速くなります。
つまり、ここでも回転数ではなく、外周での周速で比較しないと意味がないわけです。
たとえば同じ程度の最高出力のエンジンでも、バイクのエンジンの場合はエンジンへの負荷が
軽いのでクランクシャフトのジャーナル径が細いですが、車のエンジンの場合は負荷が大きい
ため、一般的にジャーナル径が太いものが多いです。
これは単にメタルの接触面積(受圧面積)だけでなく、クランクシャフトの剛性確保の意味も
あります。
以上のようなことから、そのエンジンが高回転型(高回転に対応できるか)かどうかを比較する
とき、回転数だけで一概には比べられないということです。
もちろんバルブ周りの設計や基本構造など、それだけでは比べられない部分は他にも多くあります。
*平均ピストンスピードm/sec = (ストローク(m)×回転数(rpm))/30
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