●バルブ駆動方式についてのひとこと
●少し前の「ひとこと」でDOHC(ツインカム)について書きましたが、今回はその機構と
いうか、方式について私なりの「偏見」も含めて書きたいと思います。
DOHCのバルブ駆動方式には大きく別けて「直動式(ダイレクト式)」と「ロッカーアーム式」
とがあります。 これのどちらが優れているかという点については、やはり一長一短だと思い
ますが、私は機械設計や製造をしている立場としてやはり「同じ目的ならできるだけシンプル
なほうがいい」という考えがありますので、基本的には直動式が好きです。 実際、レース用
エンジンの設計者や、チューナーの多くも直動式を好む人が多いようです。
ですが、ほんとうに直動式がベターなのかどうかいろいろ考えるとそうとも言えないようです。
↑参考:直動式エンジンの例。 アウターシム式の直動式です。
直動式のメリットはやはりカムとバルブの間の介在物がリフターとシムであり、これらはバルブ
と一体となって動くため、バルブ駆動系の剛性が高く保たれることから高回転での追従性に優れる
という点です。
一方、見落としがちなデメリットとしてはカムノーズがリフターを押す際はリフターの中心を押す
わけではなく、端から当たり中央を通ってまた端でカムノーズが離れるという接触の仕方をします。
このとき、カムが中央から外れて押しているときはリフターを「こじる」ような力がかかりながら
スライドしていることになりますので、意外と往復運動時の摺動抵抗(摩擦抵抗)が大きくなる
ものです。 これはピストンとシリンダーの摩擦みたいなもので、接触面積も多いため高回転では
無視できないフリクションロスとなってきます。
次に、ロッカーアーム式の場合ですが、たしかにバルブと一体とは言えない動きをするロッカー
アームが介在することは剛性という点ではやや劣るかもしれませんが、固定側支点を中心として
揺動運動をしますので、摩擦抵抗は直動式のリフター(タペット)よりかなり小さくできます。
また、高回転で重要となる動部分の「慣性質量」ですが、これはどっちもどっちです。
一見すると直動式(とくにインナーシム式)のほうが動く部分の重量が軽いように見えますが、
ロッカーアーム式も実際に動く際はその質量の全部が慣性質量となるわけではなく、とくに重要
なのはカム接点からバルブを押す端部までの質量で、この部分の質量を考えると設計の仕方次第
ではありますが、むしろ直動式よりも軽くできるのではないかと思います。
それに対して直動式はリフターやシムなどすべてが往復運動部分の慣性質量となります。
とくに、直動式でもアウターシム式では意外と重量がかさみますので、これと比較した場合は
ロッカーアーム式のほうが慣性質量面でも軽く、なおかつ摺動抵抗(フリクションロス)も少な
くなるということで、すべての面で有利になる可能性さえあります。
さらに、とくにカムリフトが大きくなるほど直動式ではリフターの径も大きくする必要が出て
きますのでそのぶん摺動抵抗も増大しますが、ロッカーアーム式はレバー比でバルブリフトを
稼げますので、それほどデメリットを生まずに対応できるというメリットがあります。
これらのことを考えると高回転での追従性においても直動式が絶対的に有利とは言えず、きちんと
無駄なく設計すれば慣性質量、フロクションロス、剛性トータルでロッカーアーム式のほうが
有利にできるとも言えます。
↑参考:HONDAのF1用RA168E。 ホンダはF1エンジンでもロッカーアームを使用していました。
ホンダの市販DOHCはVTECシステムのない時代からロッカーアーム方式を使用していますが、
おそらく社内の実験等で最終的にロッカーアーム式のほうが総合的に有利であるという結果を
得て採用しているのだと思います。
なお、カムについてですが、直動式はカムリフト=バルブリフトとなりますので非常に分かり易く
シンプルで、通常は対称カムが使用されます。
対してロッカーアーム式はカムノーズ接触部とロッカーアーム支点の距離が変化しながら動くため
対称カムではバルブリフトカーブが対称にならないため、通常は非対称カムが使用されます。
上図RA168Eでも非対称カムが使用されているのがわかると思います。
●なお、いわゆる油圧ラッシュアジャスター(HLA)を使用したシステムは私は好きではありません。
その理由は多くの人が同じだと思いますが、油圧に使用されるエンジンオイルには微細ながら気泡が
含まれるため、それが圧縮されるとカムプロファイル通りにバルブが動いてくれないこと、さらに
高回転になるとこのHLAの油圧室内へのオイルチャージが間に合わなくなってとくに高回転での正確性
や信頼性に劣るからです。 要するに高回転型エンジンには向いてないのです。
とくに直動式のラッシュアジャスターは最悪で、その重量すべてが往復運動質量となるため、とても
高回転での信頼性などは求めることはできませんので、高回転、高出力型のエンジンには不利です。
↑参考:ネジとスプリングを利用した機械式ラッシュアジャスターの見本です。
まだ実用化にはいくつか問題がありますが、少なくとも油圧式よりは剛性は高そうです。
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