●エンジンの馬力表示についてのひとこと

●馬力表示について

現在はkw表示となっていますが、私はやはりエンジンの出力はPSあるいはHP表示のほうが

しっくりくるので今後もその方針でいくつもりです。

 

で、馬力表示には大きく別けてJIS(ISOと同じ)、DIN(ドイツ表示)、SAE(米表示)の

3種類があります。

基本的に大差はないのですが、いちおう基準大気状態は以下のような違いがあります。

DIN
JIS/SAE
気温
20°C
25°C
大気圧
1013hPa
1000hPa

これで見ると、たとえば同じ車(エンジン)をダイナモにかけて出た数値に上記基準にあわせる

ために補正をかけた場合、馬力は気温が低いほど、また、気圧が高いほうが数値が上がりますので、

JISやSAEに比べるとDINのほうがやや高い数値になることがわかります。

なお、実際はこの条件に換算するために補正式というのがあるのですが、DINは1種類のみで単純

なのですがJISやSAEはNA、ターボ、ディーゼルとエンジンごとに細かく規定されていて複雑に

なっています。 ですので補正式の詳細についてはここでは書きません。

なお、馬力単位には「PS」と「HP」がありますが、これも一般的な比較ではほとんど同じと

考えて問題はないのですが、基本的には1HP=1.015PSとなります。 つまり、厳密に言うと

同じ馬力数値ならばHP表示のほうが若干小さい数字になります。

たとえば軽の64PSは約63HPになり、280PSは276HPとなります。

 

いずれにしても馬力というのは仕事量ですので、トルク等のように単純な力のモーメントとして

測ることはできませんし、ましてや長さや重量のように基準に対して比較測定できるものでも

ありません。 ですので、このように「できるだけ条件を揃えて」なおかつ数回にわたり試験

してみて平均値、近似値を出すしかないのです。

ですので、馬力というのは「測定」ではなく、あくまで「試験」として扱うべきものです


●ネット表示とシャシーダイナモ数値について

よくシャーシダイナモによって出された数値とカタログNET値との差を比べて「このエンジン

はカタログ値よりもパワーが出ている、出ていない」という話をしますが、カタログのいわゆる

NET値とシャシダイの測定方法は同じではありません。

カタログの計測値はあくまでもエンジン単体に加え補機類の負荷を加えたエンジンベンチ上の

ものです。

対してシャシダイの測定方法はご存知のように最終的に駆動輪から出た出力を基に測りますので、

当然、駆動系の損失が加わります。 この駆動系の損失は最終的には「ロス馬力」(損失馬力)

として計測馬力に加算されます。

 

ただ、このロス馬力というのはあくまでもローラー側から回された抵抗ですので、実際の駆動抵抗

よりも大きなロスとして計測されてしまいます。

これは最終減速比の関係で、たとえばFR車のデフギアを手で回すとき、プロペラシャフト側から回す

よりもドライブシャフト側から回すほうがはるかに重いということでわかると思います。

また、ローラー自身の慣性質量も誤差を生む要因ともなっており、さらに、タイヤとローラーの間での

スリップロスも少なからずありますので、これも測定ロスとなります。 これらの損失(ロス)がある

こと、また、測定者のアクセルを戻すタイミングやクラッチを切るタイミングの微妙なずれでロス馬力

の誤差を生じることから、個体差や測定時の諸条件を差し引いても多くの場合はカタログNET値よりも

シャシダイ数値のほうが馬力は低くなるのが一般的なのです。

また、車軸式のいわゆるダイナパック(ダイノパック)の場合は負荷のかけ方などがローラー式とは

また異なりますので、計測結果の見方もまた違ってきます。

とくにダイナパックのような車軸式は前述した「ロス馬力」即ち、駆動系の抵抗値が計測できないのが

欠点で、計測数値はそのぶんが差し引かれた数値、つまり駆動輪出力しか出せません。

↑ローラー式のパワーチェックグラフ概念図です。

図の「駆動輪馬力」が本来のタイヤから出力される馬力、「ロス馬力」がミッションやデフ等の

駆動系の機械損失となります。 この2つを足したものがエンジン出力となるのです。

ダイノパック等の車軸式ではこの「ロス馬力」が出せないためにそのぶん数値が低くなるわけです。

そのため、このローラー式表示に換算するために擬似的に1.1〜1.2の係数をかけて「帳尻合わせ」

をして比較することになるのです。

 

早い話「ローラー式はエンジン出力を」「車軸式は駆動軸出力を」測っていると考えるとよいでしょう。

(つまり、ローラー式のロス馬力を加算しない数値が車軸式の計測数値とほぼイコール条件になります)

つまり、車軸式はロス馬力が出ないぶん、ローラー式よりもさらに低めに出るのが当然なので、カタログ

NET値との差はさらに大きくなります(一般的に車軸式で出た数値をローラー式に置き換えて換算する

ときはこの「ロス馬力」を想定して1.1〜1.2倍にすることが多いようですが、これの数値は駆動形式等に

よって駆動系の抵抗が異なるため、厳密には車種ごとにこの係数は変えないと正しい数値は出ません。

ですのでこのローラー式に換算するという1.1とか1.2という係数は実はかなりいい加減なものなのです)

よく「ダイノパックはローラー式シャシダイより辛い数値しか出ない」と言われますが、甘い辛いの問題

ではなく、ただ単に車軸式はこのロス馬力が出せないぶん低い値になるだけの話なのです。

これらの理由から考えますとダイノパック等の車軸式の場合、個人的には不確定な係数をかけて「ローラー

式換算で…」などとやるよりも素直に「駆動輪出力どうしの比較」のほうがむしろ良いのではないかと

思います。 つまり、比較するときに車軸式はそのままの数値を、ローラー式はロス馬力を加えない数値を

比較すればいいだけのことです。 そのほうが純粋な「駆動輪出力」どうしの比較ができます。

ただし、これをやるとカタログ値から大きくかけ離れた低い数値になってしまうため、ユーザーもチューナー

もあまり面白くないでしょうけどね。

 

以上のようにカタログ値とシャシダイでは条件が異なりますので、もし自分の車をシャーシーダイナモ

にかけてカタログ値よりも低かったからといって悲観することはありません。

おおよその目安としては、カタログ数値を「100」とした場合、ローラー式シャシダイで「85〜100」、

車軸式シャシダイで「70〜85」あたりが出ていれば合格点(アタリとまでは言わなくてもハズレでは

ないという意味)かと思います。 

 

なお、上記で「カタログNET値よりもシャシダイ数値のほうが馬力は低くなるのが一般的です」と

書きましたが、現実には(とくにローラー式シャシダイでは)ターボエンジン車ではカタログ値より

も高く出ることが当たり前のようにあります。 とくに280馬力規制時代の280馬力車や軽自動車の

ターボの64馬力車ではその傾向が顕著です。

これはあくまでも「カタログ表示上の数値を280馬力、あるいは64馬力で統一しよう」というだけ

のものであったため、実際にはそれを上回る馬力が出ている個体がほとんどなのが現状です。

逆に、NA車ではほとんどの場合はカタログ値より低く出ることが一般的ですが、もしシャシダイ

で出た数値がカタログ値と同じかそれ以上に出ていた場合は「立派」としか言い様がないでしょう。

 

●シャーシダイナモ数値およびグラフの落とし穴

このようなシャーシダイナモ、ダイノパック、またはメーカーカタログのエンジン性能曲線図の

グラフではそのエンジンのパワーおよびトルク特性がよくわかります。

しかし、そういったグラフと実際に運転した際の感覚にはズレがあることも事実です。たとえば

「このエンジンはグラフでは低回転ですごく大きいトルクが出ているはずなのに、実際に運転

してみると思ったほどトルクを感じない」「めいっぱいアクセルを踏み込めば力は出るけど、

アクセル開度が小さい領域ではあまり力がない」などです。

これはこういったシャーシダイナモグラフはあくまでも「スロットル全開、全負荷時のもので

しかない」からです。

こういった傾向はとくにターボやスーパーチャージャーなど過給エンジンでは顕著なのですが、

アクセルを全開で加速するときはたしかにカタログ通りのトルク特性が得られますが、街乗りで

もっともよく使う低いアクセル開度ではたいしたトルクが出てくれないことがあります。

こういうエンジンだと加速するために必要以上にアクセルを開けることが多くなるため、結果と

して燃費も悪化したりします。

こうしたパワーチェックやカタログの性能曲線グラフ(パワーカーブ、トルクカーブ)はあくま

でもアクセル全開という一定条件でのものでしかないということをよく認識しておく必要が

あります。 実際にその車、エンジンを運転してみていかに少ないアクセルの踏み込み量で大きな

トルクが出てくれるかはやはり乗ってみないとわかりません。カタログのエンジン性能曲線グラフ

やシャーシダイナモのデータはそれだけでそのエンジンのすべての性能がわかるほど万能ではない

のです。

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