●材質表示と熱処理についてのひとこと

●よくチューニングパーツなんかでは宣伝文句として「SCM435H使用」とか「SAE4340材使用」、

スプリングなんかでも「SAE9254材使用」とか、いかにも特殊な材料を使用しているかのように

宣伝して商品価値を高めようとしているようなのを見かけます。

とくに外国規格なんかをそのまんま載せるといかにも高級な感じを受けますが、こういった表示は

消費者に与えるイメージを優先したもので、実際は合金鋼、とくに特殊鋼というのは、どこの国の

規格などというのは意味を持たず、同じ規格名でも各鋼材メーカーによって大きく異なるのです。

 

●例えばSCM440という比較的安価なクロモリ鋼があります。 これも規格で呼べば1種類ですが、

どこの鋼材メーカーから買うかで微妙に異なるのです。 鋼材メーカーは各社より優れた材質を

製造するために独自のノウハウで鋼材を生産しますし、JISの規格で定められている内容成分さえ

守っていれば、あとは微量の元素を添加する等は基本的に自由なので、そこで焼き入れ性や高い

靭性を持たせたり、より均一かつ微細な組織にして鋼材としての基本性能を上げるなど工夫をして

います。

とくに競争が激しい特殊工具鋼、高速度鋼、金型鋼はめまぐるしい進化を続けていて、JISをはじめ

とする各国の規格ではとても追いつかない勢いです。

ですので、私などは特殊鋼に関しては単に材質の規格ではなくどこの鋼材メーカーのものを使用して

いるかが重要だと考えておりますので、発注の際も規格名ではなく、鋼材メーカーの商標名で指定

することも多々あります。

 

●それとならんで注意しておかなければならないのは熱処理です。 例えば私がいちばん理解でき

ないものとして上記のSCM材を使用したパーツで多く見かけるのですが、なぜか熱処理をしていない

ような製品も多く見ます。 合金鋼というのは熱処理をしてこそ合金の意味を持ちますので、例えば

SCM435をそのまま使用するのであれば、それより安いS45Cでも充分なのです。 つまりは宣伝の

ために「SCM材使用」ということで強いイメージを与えたいがために使用しているとしか思えません。

SKS等の特殊工具鋼を熱処理をせずにそのまま使用するなんてのは愚の骨頂、材質というものを全く

理解していない設計者がやっているとしか思えません。

 

●また、特殊合金鋼の熱処理にはノウハウが必要です。 金属材料というのは料理でいえば素材です。

おなじ素材でも料理人の腕次第でおいしい料理にもマズくて食べられない料理にもなります。

金属もまったく同じで、単に「焼き入れ」といっても特殊鋼の焼き入れは何処でおこなっても同じと

いうわけではありません。 ヘボな熱処理屋だと簡単にクラックを入れてしまいますし、目的とする

性能を出せなかったりといいことなしです。

熱処理屋にも得意な材質、得意な分野があって、その目的によって使い分けることが重要です。

よくJISのハンドブックには「○○度で何分、○○度で何分」などと熱処理プロセスが載っていますが

あんなのは試験片でおこなう基礎データでしかないので、実際の製品にはまったく当てはまりません。

そこで、実際の現場ではその品物の形状、大きさ、使用目的等を考慮して様々なプロセスで熱処理

をします。 教科書なんかには載っていない臨機応変に対応できる技術、これがノウハウなのです。

いい材質とそのポテンシャルを引き出す優れた熱処理技術。 この2つがあってはじめて合金鋼は

その真価を発揮します。 なにかにつけ「材質がよくないから…」というのは短絡的な考えですね。

 

●昔は日本の鋼材はダメ、スウェーデン鋼は一番などと言われたものですが、いまだにこういった

ことを言っている人を見るとある意味笑うしかありませんね。 技術は常に進化しています。

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