●ホイール/タイヤの軽量化と乗り心地についてのひとこと
●社外のアルミホイールに交換する理由のひとつにバネ下荷重を軽くしたいというのがあります。
たしかに重量に気を遣って設計されたホイールに換えることは効果的にバネ下荷重を減らす効果
があります。
ただ、実際には社外ホイール/タイヤにする際には純正よりも径や幅を大きいものに換える
ことが多いので、結局純正比で重くなってしまうことも多いのですが、サイズアップしても
できるだけ重くしたくないという意味では、実質的には軽量化と言っていいでしょう。
ただ、今さら書くことでもありませんがアルミホイールのすべてが軽いというわけではなく、
とくにスタイル重視のものは同サイズのスチールホイールよりも重いものもあるので、現実
にはドレスアップ要素が多いのだと思います。
何を目的にホイールを選ぶかは人それぞれなので一概には言えませんが、今回はバネ下荷重、
とくにホイール、タイヤについてと乗り心地の関係について書きたいと思います。
●まず、軽いホイールにすることで得られるメリットとデメリットについてです。
ホイール/タイヤは回転運動をしながら上下に往復運動をしていますので、この2つの動きを
別けて考えたほうがいいでしょう。
まず、回転運動についてですが、これは早い話がフライホイールと同じですので、軽いほう
が慣性質量が減りますので、単純に加速、減速が素早くなるだけでなく、その際に必要な
エネルギーも減らせますので、軽量化は燃費にも貢献します。
極端な例で言いますと、最近は10トントラックなどでもアルミホイール装着車が多くなって
きておりますが、このクラスになるとスチールホイールとの重量差はホイール1本あたり
20kg以上にもなることがあり、これが10本あればトラック1台で200kg以上もの軽量化
効果が得られるので、長距離を走るトラックにとってはランニングコスト効果は決して
小さくないのです。(もっとも実質的にはそのぶん積載重量が増やせることのほうを重視
していることも多いようですが)
もっともこれは極端な例ですが、普通の乗用車でもホイール1本あたり1kg程度変われば
その変化を感じ取れることも多いので、決して無視できるものではないと思います。
また、とくにオートバイなどの場合はジャイロ効果の低減によって、S字カーブなどで素早く
倒したいときなどには運動性能の向上につながります。
このことから言えるのは、仮に同じ重量のホイールであったとしても、リム部分が重いのか、
スポーク部分が重いのかによっても変わるということで、とくに回転慣性の面から言うと、
リムよりさらに外周につくタイヤの重量がいちばん重要になるということです。
ホイールの重量を気にする人は多いのですが、意外とタイヤの重量を気にする人は少ないと
思いますが、同じサイズでもメーカーや銘柄によってタイヤの重量にはかなりの差があります。
次に、サスペンションのストロークに伴う上下運動についてですが、これもエンジンで言えば
ピストンの軽量化と同様、軽いほうがより俊敏に加速度の変化に追従できますので、より路面
の凸凹への接地性、追従性を考えれば軽いほうが絶対的に有利です。
単純な話ですが、動くもの、とくに運動方向や運動速度が激しく変化するものは軽いに越した
ことはないということです。
しかしここで面白いのは「乗り心地」という人間の感覚的要素を考えると一概に軽ければ軽いほど
良いとも言えなくなるのです。
●乗り心地について
上記でも考えましたように、単純に運動性能という点においては軽いほうが絶対的に有利です。
しかし、乗り心地となるとこれは難しくなります。
と言うのも、走行中の路面からの衝撃や振動はサスペンションに伝わる前に、まずタイヤ、
ホイールを通してから伝達されますので、当然ながらタイヤやホイールはそれ自身もこの振動
や衝撃の一部を減衰していますので、軽量化によってサスペンションがよく動くようになると
いうことは、それまでタイヤやホイールの質量が減衰していた振動や衝撃の領域もサスペン
ションが負担することになってしまうのです。
物体に振動や衝撃を加えたとき、軽いものよりも重いもの(比重や密度の高いものと考えた
ほうが適切かも知れません)のほうが減衰能力が高いので当然と言えば当然です。
たとえば釘を叩くとき、重いハンマーでは叩いたときの衝撃はあまり手に伝わってきませんが、
軽いハンマーでは、叩いたときの衝撃が手に伝わってきて、シビれてしまうことがあるのと
似ています。 これは、質量があるものはそこで衝撃を吸収、減衰してくれるからで、逆に
軽いものは衝撃を吸収、減衰しきれずに、その一部が手に伝わってくるためです。
これは質量を衝撃エネルギー吸収体として利用する、いわばマスダンパーとなるわけです。
ですので、振動や衝撃を車体に伝えにくくするということでは、決して軽いホイールが有利とも
言えないわけです。
ただ、当然重ければいいかというとそうではなく、上記ハンマーの例で言えば、たしかに
重いハンマーのほうが衝撃は伝わりにくくなりますが、一定時間内にどれだけ素早くくり返し
打つことができるかとなると軽いハンマーのほうがより早く(多い回数)打つことができます。
これをサスペンションに置き換えると、重いタイヤ/ホイールの場合は衝撃は伝わりにくく
なるが、サスペンションを素早く動かすのには不利になるということです。
さらに度を越して重くなると今度はそれ自体が反発したときの衝撃が大きくなりますので、
いわゆるドタバタした感じになってしまいますし、そこからさらに重くなると、車体に対して
本来のバネ下重量の部分がスプリングやダンパーとなってしまい、地面がバネした重量に相当
してしまいます。
橋の上などで重いダンプカーなどが走行すると地面が振動し上下に揺れることがありますが、
これがまさにこの状態というわけです。
バネ下荷重の軽量化は、運動性能の機敏さや路面情報をドライバーにできるだけ伝えること、
路面の起伏に素早く追従するなど、動的物体としての性能が上がることは物理法則から言って
明らかなのですが、逆に、伝えなくてもいい振動や人間が不快と感じる振動成分なども伝達
してしまうこともあるため、これが「乗り心地」という観点からするとマイナスに感じられて
しまうことも否定できないと言えるわけです。
つまり、「足がよく動く」ことと「乗り心地が良くなる」ことが反比例してしまうこともある
ということです。
これらのバランスを考えると、車の性格によってはバネ下荷重の軽量化が一概にすべて良い
方向になるとは言えません。
また、軽量化することで運動の変化に機敏になるということは、逆に言うと定常性という
意味ではマイナスになります。 重い質量効果はその質量によって回転の変動や振動を吸収
し、なおかつ穏やかな変化にしているわけですので、一定の速度でクルージングしている
ときなどはむしろその慣性質量が安定した巡航をサポートしてくれるのです。
当然これにはジャイロ効果も手伝います。
そういう意味ではある程度のバネ下荷重があることは高速の巡航などではプラスに働きます。
ごく大雑把に言うと、スポーツカーやレーシングカーなど、路面追従性およびタイヤから
伝わってくる情報を余すことなくダイレクトに感じ取りたい、あるいはタイムを縮めたい車
には(必要な剛性が確保された上で)徹底的に軽量なホイールやタイヤが適していると
言えるでしょう。
逆に高速をクルージングするような、たとえば高速道路を安定して疲労が少なく巡航したい
大型サルーンのような車にはかえって、極端に軽くないホイール/タイヤのほうが結果と
して合っていることもあるのではないでしょうかということです。
もちろん、実際にはこれらは決して重量だけで決まるものではないです。
むしろ、多少の重量の差よりもタイヤの種類によるトレッドやショルダー剛性、ホイール
の剛性によって伝達される振動は大きく異なりますし、さらにサスペンションやボディ剛性
とのバランスもかかわってきますので、車によって大きく変わります。
むしろ単純な重量よりも、こうした他の要素の違いのほうが体感的には影響を与えること
がほとんどだと思います。
悪戯にロープロファイルのタイヤにすれば乗り心地が悪くなるのは当然ですので。
結局、乗り心地という定義そのものが曖昧で、人間の感性の部分ですので、たとえば昔の
アメ車のようなフワフワした乗り心地を「良い」と感じる人もいれば、逆に一部の欧州車
のように少しコツコツした感じのほうが乗り心地が良いと感じる人もいると思いますので、
この「乗り心地が良い」という表現そのものが非常に曖昧なので、これは「善し悪し」と
いうよりも「好き嫌い」という種類のものだと思います。
私などは観光バスのエアサスのような船のような乗り心地よりも、路線バスのような多少
ガタガタしたほうがむしろ好きなくらいですので、人それぞれだと思います。
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